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015 宇宙論的症状(遭遇したことのない状況)

●かつて経験したこともなく、何をすればよいか見当もつかないような状況

経営学の本で「宇宙論的症状」(cosmology episode)という珍しい言葉を拾いました。ミシガン大学ビジネススクールのカール E. ワイク教授へのインタビュー記事の中にあった言葉です。

人々が突然、『この宇宙はもはや合理的で秩序あるシステムではない』と感じるほどの状況に直面して、パニックに陥っている状態。教授はこういった状態を「宇宙論的症状」と読んでいます。

 ここ何年か、M&Aをはじめ、事業の売却や再統合、仕事の変更や上司の交代などが相次いだために、多くのビジネスマンが重度の字宙論的症状に見舞われています。経営幹部でさえ、自分がだれのために、また何のために働いているのか、判然としていません。

 そこにグローバル化と急速な環境の変化が加わった状況では、もはやだれも自分が何者なのか確信を持てなくなっていますが、これは無理からぬことです。自分が組織図のどこにいるのかさえ、はっきりしない人も少なくありません。

 したがって、多くのマネジャーは会社人生のなかで、少なくとも一度は宇宙論的症状に襲われ、世界が逆さまになったような経験をすると言っても過言ではないでしょう。

カール E. ワイク “「不測の事態」の心理学”(『組織行動論の実学―心理学で経営課題を解明する』、 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部、ダイヤモンド社、2007年)

このインタビューは2003年のものですが、日本では2009年にこそあてはまる描写ではないでしょうか。先日講師を務めたビジネススクールのクラスでは、20人のうち2人は、言い換えれば参加者の1割は、所属する会社がM&Aを発表していました。

かつて経験したこともなく、何をすればよいか見当もつかないような状況に放り出されたら、どうすればよいのか。教授は『行動を起こす前にすべてを考え抜こうとするタイプ』は泥沼にはまってしまう、と言います。必要なのは、行動し、体験し、『実体験を理解可能な世界観に転換する』こと。教授はこれをセンスメーキングと呼んでいます。

●いま何ができるか

ワイク教授の言葉を信じるならば、われわれは「少なくとも一度は宇宙論的症状に襲われ、世界が逆さまになったような経験をする」ことになります。仮に、皆さんがまだ「宇宙論的症状」までは行っていないとして、いま何ができるでしょうか。記事を参考にしつつ思いつくまま書いてみます。

実際に宇宙論的症状に襲われたら、もはや行動してみるしかない。ということは、その前に考えておけることは考えておくのが妥当なように思います。以下のようなことはどうでしょうか。

【想定】経営フレームワークを活用した「起こり得る災害ゲーム」

我々が日頃頼りにしているビジネスの枠組みを活用すれば、起こり得る災害の種類を網羅的に挙げることができます。たとえば経営資源といえばよく「ヒト・モノ・カネ(・情報)」と言われます。もしヒトが突然半分になったら?あるいは3C「市場−競合−自社」を使って、もし市場が突然半分になったら?を考えてみるということです。そういった災害と「いつ・どこで・誰に・どうやって」といった5W1Hの枠組みを組み合わせてみると、シナリオを具体化していけるのではないでしょうか。

【学習】他業界の事例や先賢の知恵に学ぶ

自分(自社)にとっては「宇宙論的症状」であっても、おそらく人類史上初というわけではないでしょう。自分の業界では珍しいことが、ほかの業界ではよくあることだったというケースは少なくありません。またリーダーは歴史物語や哲学者の言葉から意志決定のヒントを得ます。他の業界や昔のできごとを知っておくことは、どちらかといえば教養に属するようなことがらかもしれませんが、不測の事態への備えとしては大きな意味があります。

【観察】現場を観察する

ワイク教授は、最近の研究で原子力発電所や消防隊などシビアな業務をこなしている組織(高信頼性組織、あるいはHRO)に注目しています。こういった組織のマネジャーは状況を単純化せず、つねに現場に注意を向けているそうです。

(引用文献)

カール E. ワイク 『「不測の事態」の心理学』より。同論文はDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 『組織行動論の実学―心理学で経営課題を解明する』(ダイヤモンド社 2007年)所収。