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112 倫理の広さと深さ

倫理的であるとは、どういうことか。リン・シャープ・ペインは、著書『バリューシフト―企業倫理の新時代』の中で、これをを分かりやすく定義しています。

「倫理的である」かどうかは、大きく「何を」「どうする」ことなのかという枠組みでとらえられます。前者は倫理という言葉が指し示す内容であり、後者はそれらの内容についての具体的な行動です。倫理を広さ(何を考えるのか?)と深さ(どこまでやるのか?)でとらえると言ってもいいでしょう。

まず「何を」について、著者は「正義/人間性」という切り口で整理しています。「正義」とは、誠実さ、正しさ、公平さなどに関わる価値観(バリュー)を、「人間性」とは、人間の成熟、他人への思いやり、社会の改善に関わる価値観を、それぞれ指します。これは、たとえば東洋では「礼/仁」、西洋では「誠実さの美徳/思いやりの美徳」といったように『多くの倫理思想の伝統に見られる二つの区別』だそうです。

なるほど……。なんとなく定義に重複があるようにも感じられますが、「社会」目線の価値観が正義で、「(自分を含む)人間関係」目線の価値観が人間性だと理解すると、腑に落ちるように思いました。

次に「どうする」について、著者は「基本/完全」という切り口を考案しています。前者は最低限の基準を満たすための行動で、後者はより積極的に、文字通り完全を求めての行動です。受動/能動、消極/積極という感じです。

これら二つの切り口を組み合わせたのが、著者が作成した次のリストです。

  • 正義についての倫理的な行動(基本 ― 完全)
    • 間違ったことをしない ― 正しいことをする
    • 契約を全うする ― 約束を守る
    • 盗みをしない ― 公正でいる
    • 詐欺行為をしない ― 正直でいる
    • 法の文言にしたがう ― 法の精神にしたがう
  • 人間性についての倫理的な行動(基本 ― 完全)
    • 自己を維持する ― 自己を成長させる
    • 他人を傷つけない ― 積極的に他人を助ける
    • 人間の権利を尊重する ― 人間の尊厳を奨励する
    • 社会にとって有害なことをしない ― 社会の改善に貢献する
    • 思いやりを持つ ― 勇気を持つ

倫理的な行動のリスト*ListFreak

基本と完全の対比が効いていますね。個人的に感ずるところのあった項目(太字にしました)をピックアップします。

  • 「契約を全うする」だけでなく「約束を守る」。奇しくも、やや迷いつつ引き受けてしまい、その後膨らんでしまった仕事があり、どこまでコミットすべきか考えていました。この項目を見て、「約束」から始まった仕事だったのに、何とか「契約」を全うすればいいや的なモードに傾いていた(いる)なあと、気づくところがありました。もう一度、守るべき「約束」から考えて、やるべきことを見直そうと思います。
  • 「思いやりを持つ」だけでなく「勇気を持つ」。これが同じ項目に並んでいるところに、いろいろな意味でハッとさせられました。「思いやりを持つ」が「基本」にすぎないという著者の厳しさにも驚きましたし、思いやりを突き詰めていくと勇気に突き抜けるというのも、このリストの中で対比させられると、納得できる洞察です。