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154 ただ今日のために

【Just For Today】

2015年の初回ですので、1年間の目標設定について書くのがふさわしいかもしれませんが、1月もすでに半月が過ぎてしまいました。そこで視線を1年間から1日間に落とし、「ただ今日のために (Just For Today)」というリストをご紹介します。

マネジャーの意志決定とは関わりの薄い項目もありますが、共感できそうなものがあれば、つまんでお使いいただければと思います。

  1. ただ今日のために、幸せでいます。エイブラハム・リンカーンの「人は、本人がそうあろうと決めた程度に応じて幸せである」という言葉が正しいとすれば、幸せは自分の内側にあり、外側のものには関係がありません。
  2. ただ今日のために、すべてのものを自分の欲求に合わせようとせず、自分を起こっていることに合わせます。家族・ビジネス・幸運をあるがままに受け止め、自分をそれらに合わせます。
  3. ただ今日のために、自分の身体をいたわります。身体を酷使したり無視したりせず、動かし・手入れをし・栄養を与え、自分の依頼に完璧に応える乗り物にします。
  4. ただ今日のために、心を強くするよう努めます。有益なことを学びます。無為に過ごしません。努力・思考・集中を要する本を読みます。
  5. ただ今日のために、三つの方法で魂を鍛えます。 (a)誰かによい行いをし、気づかれないようにします。 (b)ウィリアム・ジェームズが提案しているように、自分がしたくないことを少なくとも二つ、ただ訓練のために行います。 (c)気持ちが傷ついた様子を誰にも見せません。傷つくかもしれませんが、それを見せません。
  6. ただ今日のために、感じのよい人間でいます。できるだけよく観察し、適切な服装をし、大声を出さず、礼儀正しくし、賞賛を惜しまず、批判もあら探しもせず、誰かを統制したり改善したりしようとしません。
  7. ただ今日のために、人生全体の問題にいっぺんに取り組むのではなく、この一日だけを生き切ります。一生取り組まなければならないとしたらぞっとするような事柄でも、12時間ならできるでしょう。
  8. ただ今日のために、計画を立てます。毎時間にやるべきことを書きだします。正確に従わないとしても、計画を立てます。それは二つのやっかいもの、慌てることと優柔不断を退治するでしょう。
  9. ただ今日のために、三〇分間一人っきりになり、くつろぎます。ときにはその三〇分間に、もう少し広い人生の展望を得るために、神について考えます。
  10. ただ今日のために、恐れません。とりわけ、幸せでいることを、美しいものを楽しむことを、愛することを、愛する人たちが私を愛しているのを信じることを、恐れません。

ただ今日のために (Just For Today)*ListFreak

これは、『人を動かす』の著作で知られるデール・カーネギーのもう一つの著名な作品『道は開ける』で引用されています。ただ、残念ながら引用にやや不明瞭なところがあるうえに、彼が引用元とした人物にも間違いがあったようです。

できるだけ正確な引用元を探った記事によれば、1921年のボストン・グローブ紙にフランク・クレインが寄せた文章が原典ではないかとのこと。(1) お目にかけたリストは、その原典をベースに訳し直したものです。(2)

【今日が人生で最後の日であってもなくても】

わたしのお気に入りは、7の「一生取り組まなければならないとしたらぞっとするような事柄でも、12時間ならできる」です。自分をだます方策に過ぎないと頭では知りつつも、こうして目にしてみると効果的に自分をだましてくれる、わたしにとってはよい言葉です。

今・ここを大切にしようという意味合いでは、「今日が人生で最後の日だとしたら……」という表現もときどき見かけます。「今日が人生で最後の日だとしても、今日やろうとしていることをやりたいか?」というスティーブ・ジョブズのスピーチも有名になりました。(3)

切迫感を与えてくれる言葉ですが、やや悲壮感もあり、もしかしたら刹那的になってしまいそうな気もします。毎日これを真剣に自問しているという人にはまだお目にかかっていません。それほどに、難しい問いかけなのだと思います。

一方「ただ今日のために」は淡々とした語感で、考えやすいように思えます。しかしこちらも、ある種の覚悟が必要です。何しろ「最後の日と思って」がんばろうとか、「最後の日だから」やりたいことをやろうとか、そういう刺激がないのです。

今日が人生で最後の日であってもなくても、「ただ今日のために」。そんな静かで決然とした態度で日々を過ごせたら、と思います。無理とは思いますが、毎日12時間だけ取り組んでみようかなと。

(1) “Just for Today, I Will Try to Live Through This Day Only (Quote Investigator)

(2) 訳文の検討にあたり、スティーブン・ワッツ 『デール・カーネギー 下』(2014年、河出書房新社)も参考にしました。

(3) “Text of Steve Jobs’ Commencement address (2005)