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160 艱難辛苦、汝の物語を書き換える

【パーソナリティの3層モデル】

自分なりの(さらには自分ならではの)マネジメントスタイルを確立するうえで、自分のパーソナリティを知ることは重要です。パーソナリティとはその人に固有の反応特性で、大まかには性格・人格・人柄と呼ばれるたぐいの概念です。それはよくも悪くも自分の身についたもので、変えたくても容易に変えられるものではありません。

久しぶりに親戚や友人に会って「変わったな」と感じることがあります。ところが話していくうちに昔の雰囲気がよみがえってきて「やっぱり変わってないな」と思い直すこともあります。パーソナリティは、芯は変わらないけれど、社会に出たり結婚したり親になったり、役割が変わるにつれて被る衣が増えたり変わったりする。そんなイメージを持っていました。

先日読んだ『しあわせ仮説』という本で、著者のジョナサン・ハイトは、心理学者ダン・マクアダムスの『実際には、性格には三つの層があり、これまでは基本的な特性である最下層のみを重要視しすぎてきた』という指摘を紹介していました。この三層モデルがわかりやすかったので、他の情報源と合わせて編集したものを紹介します。

  • 【基本的特性】状況に対する自動的な反応の特性。遺伝子の影響を受ける。例えばビッグファイブ(神経症傾向、外向性、新しい経験への開放性、協調性〔思いやり/優しさ〕、誠実性)。
  • 【性格的適応】特定の役割や分野で成功するために発達させるもの。基本的特性の影響を受ける。例えば個人的な目標、防衛や対処のメカニズム、価値、信念、ライフステージでの関心。
  • 【ライフストーリー】人生に一貫性・意味・目的をもたらす物語。Narrative identity(物語的自己同一性)として知られる。

パーソナリティの3層モデル(マクアダムス)*ListFreak

「基本的特性」は、いわゆる性格です。ある程度まで遺伝子によって決められているというのが定説です。これは別々に育てられた一卵性双生児を対象にした調査などから推定されています。

「性格的適応」は、目的に合わせた性格のチューニングパターンのようなものです。たとえば立食パーティを考えてみます。外向性の高いAさんは素のままで会場に飛び込んでいけます。このAさんの外向性を10としましょう。

一方Bさんは外向性が低く、4とします。しかしBさんはその自覚があり、かつ外向性を発揮すべき状況であることも理解しているので、事前に気持ちをつくり込んで8くらいに引き上げてから会場に入りました。Bさんが目的に応じて必要なだけの外向性を一貫して発揮できているのであれば、これもパーソナリティの一部として見なされてよいでしょう。

「ライフストーリー」をその外側に置いたところに、豊かな洞察を感じます。ハイト氏がマクアダム氏の言葉を引用している部分を、わたしも引用します。

マクアダムスが「再構成された過去と、認識されている現在と、期待している未来が首尾一貫したものとなるように物語を進化させ、人生の神話に息を吹き込む」と述べているように、私たちは物語を作り出さずにはいられないのである。

ここでいうライフストーリーは「いつ、どこで、何をした」という年表のようなものではありません。断片的なエピソード記憶をまとめて織り上げた「私ってこんな人」という自己認識の物語です。

【ライフストーリーは、書き換えられる】

本書は、題名が示すように「幸福」がテーマです。そしてパーソナリティの3層モデルが紹介されている第7章のタイトルは「逆境の効用」。逆境の効用は、それがライフストーリーの再構築を強制することで、結果として3層の一貫性が高まるような解釈が生じる可能性にあるというのです。

人が逆境を乗り越えて成長したと報告する時、自分の内部の新たな統一の感覚について説明しようとすることがある。この統一感は、友人たちにはわからないかもしれないが、内側から湧き上がる成長や力強さ、成熟、知恵のように感じられるのである。

わたし自身も事業の失敗を経験していますし、左遷・失業・離婚から事故・病気にいたるまで、さまざまな逆境と復活の話を聞いてきました。その数々の物語をこの3層モデルを見ながら思い返すと、この「統一感」という言葉がわかるように思います。どこか見栄混じりだった「性格的適応」、どこか借り物のようだった「ライフストーリー」がつらい経験によってリセットされ、結果として無理のない、成熟したパーソナリティが備わったように感じられる、ということでしょう。

人は、基本的特性のレベルでは変わらないとされています。しかし逆境にともなう成長により、「人をその人たらしめている人生の物語」は豊かに書き換わっていくのです。