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171. 公正(フェア)に接する

【フェアネス(公正さ)が重要】

組織の構成員が情熱を持って働くためには、何が必要なのか。組織コンサルタントのデビッド・シロタらは、大規模な調査によって3つの要素を見出し、著書『熱狂する社員』で紹介しています。

  • 【公平感】 社員が雇用主の根本的な正当性を信頼できる
  • 【達成感】 社員が仕事に達成感とプライドを感じられる
  • 【連帯感】 社員が社会的・感情的欲求を満たせるコミュニティにいると感じられる

社員のモチベーションの3要素*ListFreak

今回は【公平感】に注目します。公平は原著ではfair(フェア)という言葉が使われています。展開の都合上、フェアを「公正」と呼んで先に進みます。

公正な組織であると構成員が感じられることは、「熱狂する社員」を生み出す必要条件といえるでしょう。それだけで情熱が生まれるわけではないが、それが損なわれると不満につながるので、必ず満たされるべき条件ということです。

実際、組織の長は公正を保つのに腐心します。たとえば全メンバーと面談をするという単純な仕事であっても、一律に一人あたり30分間の時間をとれば公正だとは言えません。重要な仕事を任されているメンバーや深刻な問題を抱えているメンバーは、そうでないメンバーと同じだけの時間しか相談できないことに不満を感じるでしょう。だからといって、すべてが個別対応では一貫性を保つのが難しくなります。

では、限られた持ち時間をどういった原則で分配するのが「公正」なのでしょうか。政治学・心理学・数学・交渉(学)など多くの分野でさまざまな研究が積み上がっています。

【公正にもいろいろある】

公正な分け方について、多くの研究者が引用する定番は次の3原理です。

  • 【公平(equity)】 貢献度に応じて分配する(それを獲得するのに貢献した人に多く)
  • 【平等(equality)】 均等に分配する
  • 【必要(need)】 必要性に応じて分配する(それを必要とする人に多く)

公正な分配を考える3つの視点*ListFreak

面談の例でいえば、一律に30分間を割くのが平等原理です。責任の大きい仕事をしている人に多くの時間を割くのが公平(衡平)原理で、大きな問題を抱えている人に多くの時間を割くのが必要原理ということになります。

こういった枠組みが手に入ると、多少すっきりします。たとえば面談に割ける時間の5割を平等に、2割を公平(衡平)に、3割を必要に従って配分しようと計画できます。

【公正をどう測るか】

ただし、上記は分配の基準であり、メンバーがどう感じるかは別の問題です。次に紹介するのは、分配の基準ではなく、分配が当事者によって公正と感じられるための条件を示したものです。

  • 【平等性】この方法ならば、当事者は平等に利益を得ることができる
  • 【無羨望性】この方法ならば、(少なくとも50%の獲得が保証され、)妬みを生まない
  • 【効率性】この方法以上に、当事者に利益をもたらす解決法はない

分割法の公平さをチェックする3つの視点*ListFreak

平等性と無羨望性の違いがすこしわかりづらいので、面談の例で補足します。平等とは、先のロジックでリーダーが時間配分を行った結果、メンバー全員が互いの利益(この場合は面談から得られる満足で測ることにしましょう)は等しいと思えるということです。でも、先に述べたように、平等だけでは不満を持つ人がいるかもしれません。無羨望とは、誰かが誰かのことを妬ましいと思わないという状態です。

この3条件の引用元であるスティーブン・J. ブラムスらによる『公平分割の法則』(阪急コミュニケーションズ、2000年)では、当事者が2人の場合における平等かつ無羨望(かつ最高効率)な分配方法が提案されています。当事者が3人以上の場合には、この3条件を同時に満たす分配方法は存在しないそうですが、公正感のチェックリストとしては使えるでしょう。面談の例でいえば、先のように時間配分をした後、次のように自問するかたちで活用できます。

  • メンバーは、互いに平等な利益(面談による満足)を得られそうだと思うか?
  • メンバーは、互いに妬みを持たないか?
  • メンバーは、これが最善の方法だと思うか?

すべての条件を完全に満たす解はないとわかっていても、これらの問いかけによって時間配分を再調整することの必要性、あるいは説明をていねいにしておくべき人の存在に気づくことはできそうです。