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048 「事情通」に頼らない

●「事情通」の仕事

ある中央官公庁の無為無策を難じる記事を読みました。記者に「あの組織は、なぜあのような策を取ったのか?」と問われた大学教授は、実はその組織には強力な派閥があって、特定の方向性の策が打ち出されやすい構造があるのだと答えていました。

政治経済方面の書籍や記事には、よく「事情通」が登場します。「事情通」の役目は、問題と見なされている状態や行動に対して、あまり知られていない情報を持ち出し、それが原因であると示唆することです。

しかし、その情報は事実かどうか、よく分からない。そしてその情報が問題の主な原因なのかどうかも、よく分からない。単に考えられる原因のうちマイナーなものを挙げてみせただけなのかもしれないのです。

●社内にもいる「事情通」

組織の中にも「事情通」はいます。たとえば、あなたが何か新しい事業提案をしようとすると

「実は、社長は前職でそういう事業に手を出して失敗してるんだ。だから……」

と、何かをほのめかしてくる人たちです。

どうしても決められないときには、われわれは「もっと情報が欲しい」と思います。決定的な情報がどこからかもたらされないかという期待をつい抱いてしまいます。

「事情通」に話を聞きたくなってしまうのはそんなときです。もちろん、問題の原因となっているかもしれない事実をたくさん集めるのは、有益な作業です。新しい事実によって、自分の思い込みに気がつけるかもしれません。

しかし、事実とそれを語る人の意見とは、注意深く分ける必要があります。先の例でいえば、社長が自分の提案したいような事業で失敗した経験を持っているのは事実かもしれません。しかし、「だから……」以降の話や、それを語りながらその人が醸し出すノンバーバルな(言葉によらない)メッセージは、その人自身の先入観や前提が色濃く反映されている可能性があります。ノンバーバル・スキルの高い語り手の中には、相手を誘導するつもりがなくても、高い説得力を発揮してしまう人もいます。そういった人の話を「判断のための決定的な情報が欲しい」と思いながら聞いてしまうと、抗うことは難しくなってしまうでしょう。

語られた情報から事実を選り分けるだけでなく、相手が語っていない事実もあるかもしれないことを念頭に置く必要もあります。悪意がなくても、人は自分の思いこみに合わないデータを無視しがちです。「事情通」は聞き手を混乱させないようにという配慮から、結果的に特定の情報を語らずにすませるかもしれません。

●「依存しないが無視もしない」

経験や知識が豊富な(だけの)「事情通」に自分の判断を依存しない。かといって、耳をふさぐ必要もありません。「事情通」との接し方を、下にまとめてみました。

  • 事情通の話に対しては「依存しないが無視もしない」スタンスを保つ。新しい情報を自分の判断にどう反映させるかは自分の責任である。
  • 事情通の語る情報から、事実と意見とを分ける。
  • 事情通が言及していない事実もありえることを忘れない。
  • 事情通の話を、そこに自分にとって新しい事実が含まれていたからという理由で過大評価しない。それは事実であっても、事情通がどのようにほのめかそうとも、問題の本質からは遠い断片的な情報に過ぎないかもしれない。

「事情通」との付き合い方*ListFreak

われわれは誰しも「事情通」の顔を覗かせています。たとえばアドバイスを求められて相手のために自分の経験を披露するとき、あるいはマネジャーとして部下にアドバイスを与えるときを思い返してみてください。事実と自分の意見とをどこまではっきり分けて伝えられているでしょうか。

また、相手が「事情通のあなたに誘導して欲しい」という依存心を示してくることも珍しくありません。部下の自立を促すならば、「どう思われますか」といった質問には即答を避け、まず相手に考えてもらうように運ぶべきでしょう。