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054 納得を引き出す

●人は、自分の言葉で言い直して理解していく

リーダー育成の取り組みや研修の実施に関わることが多いので、自然と「人が何かを理解する」というプロセスに興味を持つようになりました。

われわれは、新しい概念を理解できるという点ではとても柔軟ですが、それを既に持っている知識や経験と関連づけてしか理解できないという点ではとても頑固です。

たとえば先日、製造業のマネジャーの皆さんとともに交渉・合意形成の方法を考えるプログラムを設計・実施しました。

まず最初に、交渉を進めるための簡潔な枠組みを提示します。その一つには、たとえば「共通の目的を発見する」という言葉があります。

次に、ケーススタディとして二者択一的な判断が求められる状況が示されます。たとえば、ある事業を始めるか見送るかといった状況です。参加者は賛成・反対の二チームに分かれ、それぞれの主張を支えるロジックを構築します。そのうえでお互いの主張を検証し合い、「第三の解」を導こうと努力します。

最後に、一連の演習を振り返ります。たとえば「共通の目的を発見する」とはどういうことかを、それぞれが話していきます。

同じ枠組みのもと、同じ議論に参加した仲間ではありますが、それぞれの言葉は驚くほど多様です。それぞれが、いま学んだことを過去の知識や経験に関連づけて理解していくのですから、同じ言葉になろうはずがありません。

一方、よく納得していないのに、他の参加者や研修の進行などへの配慮か、理解したふりをしてしまう方もいらっしゃいます。そういう方は、典型的には「共通の目的を発見することの大事さを学んだ」といったお題目どおりの理解を述べられるので、それと察せられます。皆さんも、日々の業務の中でそういったご経験をお持ちではないでしょうか。

こういった経験から、マネジャーが部下に自分の意志決定を共有していく際のヒントを引き出すことができます。

●「自発的な再発見」を促す

「納得」とは「自発的な再発見」のプロセスです。「自発的な」というのは、本人の納得を他人が強いることはできないという意味です。納得は本人が「する」ものであって他人が「させる」ものではありません。「再発見」というのは、人は自分がすでに知っている概念に関連づけてしか理解しないという意味です。

この前提に立つと、コミュニケーション上の工夫を凝らす余地が見えてきます。たとえば難しいミッションを依頼するとき、仕事の目標や目的を部下自身の言葉で表現してもらうのは、両方のポイントを満たし得る方法でしょう。

当たり前のようですが、実際に時間を取って部下の理解を確認する手間をかけているマネジャーは、実は多くありません。「分かった?」というYes/Noで答えられる質問をしても、復唱させても、十分ではありません。

部下に何をどこまで話してもらえるかは、マネジャーが何をどこまで聞くかにも依存しています。これはこれで大きなテーマですので、次回に譲りたいと思います。