101 ドアの誓い

『第3の案』は、ベストセラー『7つの習慣』の著者スティーブン・コヴィー氏の著作です。二者択一的な思考を乗り越えて最善の案を求めるというテーマが拙著『クリエイティブ・チョイス』と同じだったので、興味深く学びました。

ざっくり言えば、『クリエイティブ・チョイス』が個人の選択に注目しているのに対して、『第3の案』は対人関係に注目しています。なかでもさすがと唸らされたのが、徹底して原理原則に立ち戻る氏の姿勢です。氏は「こちら対あちら」的な対立に陥らずに第3の案を生み出すためのマインドセット(パラダイム)を、次のように定義しています。

  • 【パラダイム1:私は自分自身を見る】 主体的に行動できる唯一無二の個人として、自分自身を見る
  • 【パラダイム2:私はあなたを見る】 他者をモノではなく人として見る
  • 【パラダイム3:私はあなたの考えを求める】 他者を避けたり、他者に対して防御的な態度をとるのではなく、対立点を意識的に探す
  • 【パラダイム4:私はあなたとシナジーを起こす】 攻撃が応酬されるサイクルに取り込まれず、これまでだれも考えたことのない解決策を探し出す

「第3の案」を見出すための原則、パラダイム、プロセス(一部省略) – *ListFreak

 マインドセットの話だけに、頭で理解できたとしても実践が難しいわけですが、本書は家庭・学校・職場・社会・国家といったさまざまなレベルで豊富な事例を用意して、読者のインスピレーションを促してくれます。

「第3の案」を生み出すマインドセットを維持する工夫として、わたしが強く共感した事例を紹介します。第4章「家庭での第3の案」からの引用です。

私のよく知っている女性は、仕事から帰ってくると家の前で少し立ち止まる。家に入る前に家族のことを考え、家族と築きたい世界を思い描く。そしてドアを開け、思い描いたことを現実にするのだという。

共感した理由は、自社の問題解決セミナーでもまさにこういった練習をするからです。たとえば部下の提案を聞いてアドバイスをするはずが、気がつくと質問は詰問に、アドバイスは説教になってしまい、部下を意気消沈させてしまった……というマネジャーは少なくありません。そこで「会議室に入る前に、これだけはおさえようという目的、ここからはブレないようにしようという態度を決めるとすると、それは何か?」を考えてもらい、必要があればメモを作り、実践してもらいます。

なぜこういった練習を考案したかといえば、自分自身で実践してみて有益さを実感しているからにほかなりません。講師としてクラスルームに入る前に、顧客企業に訪問する前に「気持ちをつくる」作業を意図的に行うようにしてから、内容面ではより目的にフォーカスでき、精神面ではより不安が小さくなったと感じています。ちなみに「気持ちをつくる」能力は感情的知能の一能力で、この練習はEQ理論の本にヒントを得て考案しました。

引用文がわたしにとって印象的だったのは、ドアの前で立ち止まるこの女性がビジュアルに浮かんできたせいかもしれません。そう考えてみると、望ましいマインドセットを思い出すための小道具として「ドア」は有効に使えそうです。

多くの場合、気持ちをつくることが必要な場面には実際にドアが存在します。ビル、フロア、オフィスルーム、会議室、家、子ども部屋などなど。ドアというものにちょっと特別な意味を持たせて、すべからくドアを開ける前には必ず「このドアの向こうで持つべきマインドセットは何か?」と自問してみたら、どうなるでしょうか。いわば「ドアの誓い」です。それができたら、実際のドアがない場合でも、架空のドアに対して「ドアの誓い」を立てることで気持ちをつくるきっかけになるのではないでしょうか。さっそく試してみようと思います。