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133 1日を“都合よく”振り返る

● 1日を振り返る目的

「成功をつくり出す10の質問」という英語のリストを見かけました。『1日の終わりにこれらの問いを投げかければ、成功により近づくことを私が保証しよう』という前置きが付いています。

このタイトルと前置きだけで奮い立つ人もいると思いますが、「私は、~したか?」という問いを10個も並べられると、わたしは何か気圧されてしまいます。

1日の終わりに使うリストとしてはキツいなと思ったので、日本語らしく主語を外し、文末も句点に変えました。これで、少しつぶやく感じが出ます。タイトルも、ニュートラルな「1日を振り返る10の問い」として翻訳したものを引用します。

  1. 大切にしている人たちが大切にされていると感じているか、確かめたか。
  2. 世界を善くする何かをしたか。
  3. 自分の体をより強くしなやかにするように整えたか。
  4. 将来の計画を見直し、磨きをかけたか。
  5. 独りのときでも、人に見られているときと同じように行動したか。
  6. 不親切な言動を避けたか。
  7. 価値のある何かを成し遂げたか。
  8. 恵まれていない人を助けたか。
  9. 素晴らしい思い出を作ったか。
  10. 生きているという驚くべき贈り物に感謝したか。

1日を振り返る10の問い*ListFreak

それでも内容的の厳しさからは逃れられません。たとえば、1日を振り返って「世界を善くする何かをしたか。」に向き合うとしましょう。今日は1日中外回りで、しかも成果がなかった。世界の持続可能性が疑われている今日、先進国で生きているだけで世界を悪くしているのでは……なんて考えると、「はい」と言うなんて無理!という気がしてきます。

しかし、自分を痛めつけるために振り返るのでは意味がありません。たとえば、客観的に考えた結果、自分には生存価値がないという結論になったら、死ぬべきか。ここでは「もちろんそうではない」という立場を採ります。われわれは誰しも生きるに値する。これが思考の前提です。

1日を振り返るなら、死なずにすむだけの価値を自ら見いだせるものでなければなりません。もし厳密に客観的に振り返ることで、自分が成功(であれなんであれ、本人がありたいと思う状態)から遠ざかるばかりだとしか思えないのなら、客観的に振り返るのが間違っているとすら思います。
1日を振り返る目的は、今日がどんな日であっても一区切りを付け、明日を生きる意欲をつくり出すためなのです。

● 振り返りのステップ

「1日を振り返る10の問い」は、言ってみれば「何を振り返るか」のリストです。ここでは、それを「どう振り返るか」という観点から、このリストを自分のためにカスタマイズズす方法を考えてみます。

振り返るのは行動で、その行動を促すのは期待です。とすると、1日のリズムはこのように捉えることができます。

  1. 期待する
  2. 行動する
  3. 振り返る

3.の振り返りは、実際には2つの小ステップからなっています。「行動の結果を評価する」ことと、「結果についての理由づけをする」ことです。

まず「行動の結果を評価する」から。評価は、基準によって変わります。今日成果が出なかったという結果は、「失敗」とも言えます。将来への種まきができた、あるいは学習の機会が持てたと考えれば「成功」とも言えます。

この点で、たとえば「世界を善くする何かをしたか。」のような、答え手の楽観性に依存する問いには工夫が必要です。小さな結果であっても「世界を善くすることにつながるかも!」と考えられる人もいれば、そうでない人もいます。ちなみにわたしは楽観性を測定する検査のスコアが低めなので後者です。

先の理屈に従えば、自分の1日の行動で世界が善くなったかどうかを客観的に証明する必要はありません。であれば、後者のタイプの人は「今日やったことの何が、世界を善くすることにつながり得るか」といった、強制的に行動の意味をつくり出す質問がよいように思います。とはいえ自己満足で終わってはいけないので、「さらに善くできたとしたら、それはどうやってか」といった一文を加えておきましょう。

次に「結果についての理由づけをする」について。これについては次のようなリストが使えます。

  • 内外軸(内的/外的):原因を自分に帰属しがちか、自分以外の何かに帰属しがちか
  • 時間軸(永続的/一時的):同じような状況では、いつでもその原因が同様の結果を繰り返しもたらすと考えがちか、それとも違う可能性が高いと考えがちか
  • 空間軸(全体的/部分的):その原因が他のあらゆる局面にも関わると考えがちか、その特定の状況だけに限定されると考えがちか
  • 可能軸(固定的/可変的):ある結果の原因を自分でコントロールできないものに帰属しがちか、コントロールできるものに帰属しがちか

因果関係のとらえ方のクセを測る4つの軸*ListFreak

抑うつ傾向のある人は自分の失敗を内的・永続的・全体的・固定的な原因に帰属しやすいことが知られています。抑うつ傾向のある人のほうが事象を客観的に評価する力が高い(平均的な人は客観的に評価すると「自分に甘い」)といいますので、客観的な分析のためには、すこしネガティブに考えるくらいがちょうどいいようです。

とはいえ、客観的な分析が振り返りの目的ではないとすると、成功失敗の理由づけにはけっこう個人差があること、違う理由づけのシナリオもいろいろあり得ることを心に留めておくとよいと思います。

たとえば今日の失敗を、「自分の弱気のせい」で「いつもこうなってしまう」うえに「この弱気が他の失敗をも引き起こす」のだが「自分にはどうしようもない」と捉えると、もはや打つ手がありません。同じ結果になっても「自分の弱気が悪い」という理由づけにならない人もいることに思いをめぐらせられれば、この4つの軸から新しい理由づけに挑戦することができるはずです。

● 振り返りがうまくいったかどうかを測る、シンプルなものさし

上記のような観点で「1日を振り返る10の問い」を、あるいは任意の振り返りのリストを、ブラッシュアップしたとします。結局のところ、振り返りがうまくいったかどうかは、シンプルな基準で測れます。それは前段のリストの1、つまり明日への期待が持てるかどうかです。

もし振り返り終えて心が整理され、明日を楽しみにベッドに入れるならば、それが報酬となり、振り返りは習慣化できるでしょう。

振り返っても明日への期待が湧きそうにないなら、ポジティブ心理学で効果がうたわれている3goods、すなわちよいこと(だけ)を3つ思い出して書き留めるアプローチのほうが、ここで定義した振り返りの目的にかなっています。