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161 よく観るためには止まる必要がある

【まずは、コーヒーブレイクを】

先日、ある早朝勉強会でちょっとしたスピーチをする機会をいただきました。テーマは自由とのことでしたので、「『その場・そのとき』に最善を尽くすために」と題して、ここ数年の研究テーマである「その場力」、つまり短い時間で情報に頼らず次の行動を考える力について、かいつまんでお話ししました。

その後、話を聞いてくださっていた方がこちらに来られて、一冊の本を紹介してくれました。今の話に何か通じるものがあると思うので紹介したい、有名な本ではないけれど時々読み返して元気をもらっている、そんなふうにおっしゃられていたと記憶しています。

それは、チャック・マーチンの『まずは、コーヒーブレイクを』という本でした。もとより紹介された本にはできるだけ目を通すようにしていますが、今回は単なるお勧め本ではなく、わたしの話を聞いて思い出してくれた本です。わざわざ教えに来てくださったことに感謝して、さっそく手に入れて読んでみました。

忙しさに押しつぶされそうになっているビジネスパーソンが「見つける」「変える」「伝える」という3ステップで状況を打開する、物語仕立ての短い本。楽しく読みました。書評は別の機会に書くとして、今回焦点を当てたいのは「見つける」についてです。

主人公は、先生役の老人(ティーチャーと呼ばれています)から、まずは手を動かすのをいったんやめて「立ち止まる、見る、聞く」を実践するよう促されます。超の付く過密スケジュールで働いていた主人公でしたが、むりやり自分を仕事から引きはがして周囲を観察してみると……というのがストーリーの導入。

【立ち止まる、見る、聞く】

「立ち止まる、見る、聞く」。原著では”Stop, Look, Listen”です。どこかで目にしたような……と思って検索してみると、幼児教育者向けのサイトがずらりと並びました。そう、日本でいえば「右、左、右を見て、手を挙げて……」のような、道路や線路を渡るときの合い言葉です。

それらのサイトの多くは、この後に”Think”を付けています。立ち止まり、見聞きして、さらに考えて、渡りなさい。本のほうでは”Execute”、つまり決意を持って必要な変化を起こしなさいと書かれています。
最初は”Think”なり”Execute”なりについて書こうと考えていたのですが、反芻しているうちに、最初の”Stop”に重要な知恵が込められているように感じてきました。

意味からいえば、道路や線路を渡る前には「注意しなさい」でもいいはず。でも「注意する」では子供には分かりづらいので、「見なさい」「聞きなさい」という具体的な行動に変換しているわけです。

よくよく考えるとすごいと思うのが、その前にはっきりと「立ち止まりなさい」と指示しているところ。大人からすると、安全確認のために見聞きするのだから、立ち止まるのは当たり前のようにも思えます。

でも、何のために見聞きしているのか考えろ、では行動の指示としては不親切。止まる、見る、聞くという一連の行動を何も考えずにできてはじめて、”Think”する余裕と材料を手に入れられるわけです。

【よく観るためには止まる必要がある】

止まらないと観察できないし、観察して情報を得られなければ最善の解を考えることもできないのは、実は大人でも一緒である。それを、この本から気づかされたように思います。

主人公は、先生役の老人から部下をよく観察せよといわれて、最初は「観察している」と反発します。しかし実際には自分の仕事をしながら視界の隅で捉えていた程度の観察でした。いったん立ち止まり、頭と心に空白を作り、正面から観察をしてはじめて、部下の抱えている真の問題や潜在的な可能性が見えてきたのです。

止まって、観察して、それから行動を選ぶ。これはスピーチで紹介こそしなかったものの、「その場力」の根幹と考えているSOSそのものです。

  • Stop(止まる)】一拍置いて情動をやり過ごす。感情にまかせて反応しない
  • Observe(観察する)】状況・自他の感情を観察し、隠れた意図や要求を考える
  • Select(選択する)】目的を考慮し、最善の行動を選ぶ

動揺を切り抜けるための”SOS”*ListFreak

ここまで考えを進めてようやく、この本を推薦してくださった方のいう「何か通じるもの」が見えてきました。SOSは数秒の間(ま)を想定して作ったリストですが、実はもっと長いスパンでも、立ち止まって観察することの効用はありそうです。

本コラムも、日記ならぬ週記と称して毎週半ば強制的に一週間を振り返って書いています。考えてみると、これはわたしにとって格好の「立ち止まり」の機会でもあるように思えます。