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170 カネ、出世、ときどき天職

【3種類の仕事観】

人は、仕事をどう見なすのか。仕事観について、ミシガン大学(当時)のエイミー・ルゼスニュースキーらは、次のような3つの方向性があるという仮説を立て、調査を実施しました。(1)

  • 【Job: ジョブ】 お金や生活のために仕事をする
  • 【Career: キャリア】 地位や名誉のために仕事をする
  • 【Calling: コーリング】 楽しみや貢献のために仕事をする

3種類の仕事観*ListFreak

調査を読んで興味を引かれたのは、自分の仕事をこの3つのうちのどれかだと見なす人の割合が、仕事の内容にかかわらずほぼ3等分であったという結果です。

ともすると、聖職とも呼ばれる教師はコーリング派が多いだろうとか、単純労働に従事している人はジョブ派が多いだろうとか、そういう仮説を浮かべてしまいがちですが、この調査ではそうではありませんでした。何であれ同業者の集会が開かれたとすると、そこにいる人々の1/3はお金や生活のため、1/3は地位や名誉のため、1/3は自分の満足や他者への貢献のために仕事をしているのです。

【なぜ、3種類の仕事観は均衡するのか】

仕事観が職業に依存しないとしたら、何に影響を受けるのか。論文には考察がありませんでしたので、空想をたくましくしてみたいと思います。

仕事観に影響を与えそうな因子としては、その人の性格(安定していて変えづらい基本的特性)があります。もし性格が仕事観に影響を与えるならば、いまの仕事をジョブと見なす人は次の仕事でも同じように見なすだろうと予測できます。これはすこし悲しい予測ですね。

しかし、そうとも思えません。というのは、職業選択と性格にはある程度相関があると考えられるからです。多くの人が職業を選ぶときに自分の性格に合っているかを考慮に入れていますし、企業でも性格検査を適性の判定に使っています。就業後も、「どうしても合わない」といった性格的な不適応を理由に仕事を変える人は少なくありません。結果として、その人の職業と性格にはある程度の相関が生まれるはずです。つまりものの見方・考え方は職業毎に偏りがあるのです。もし性格が仕事観に影響を与えているのなら、それは職業ごとの偏りとして仕事観の違いに反映されると考えられます。

有望そうに思えるのは、人生における状況の変化やイベントが、仕事観に影響を及ぼしていているだろうという仮説です。仕事観が性格に依存しないということは、変化する可能性があるということです。いま仕事をジョブと見なしている人も、過去にはコーリングと見なしていたかもしれませんし、将来キャリアと見なすかもしれません。わたし自身の経験や見聞を考えてみても、人の仕事観はゆれ動きます。そのような「仕事観のゆれ」はあらゆる人に平等に起きるので、職業を問わず比が一定になるのではないでしょうか。個人の回答はその時々で異なるものの、統計的には同じ比が生じているわけです。

その比が1/3ずつになっている理由は説明の難しいところですが、それだけこの3つ組の定義が巧みだったということにしておきます。揺れ加減には個人差があり、ある期間を取って測るとジョブ:キャリア:コーリング=1/2:1/3:1/6の人や、その逆の人がいるかもしれません。

【仕事観を切り替えることで仕事を続けられる】

わたしがこの仮説を支持したいのは、仕事観を切り替えていくことで、さまざまな状況に対応しながら仕事への意欲をつなぎ止められるからです。

たとえば仕事を始めたばかりの人にとっては、他から経済的な保護を受けているのでないかぎり、仕事はまずはジョブです。やがて生活が安定し、仕事にも熟練してきたら、キャリアと見なすでしょう。楽しくなり、他者から価値を認められるようになるとコーリングと思えるかもしれません。そんな仕事でも大失敗をすれば、コーリングともキャリアとも見なせなくなります。そんな時期でも、自分や家族のためのジョブと考えれば乗り切れます。

受け皿を複数持つことで、強くなれる。マズローの欲求階層説を手直ししてできたという、ERG説を思い出しました。これは人間の欲求を生存・関係・存在の3要素で捉えたモデルで、上記のような切り替えをイメージしています。(2)

「自分の能力を生かしきれない【成長】ようなら、職場の人間関係にこだわる【関係】ようになる。人間関係がダメなら、カネもうけだけと割り切る【生存】ようになる」(【】は引用者による追加)。

田尾 雅夫 『モチベーション入門

調査によると、コーリング派は仕事への満足度も高い傾向にあります。その意味ではコーリングが望ましい仕事観ではありますが、仕事は常にコーリングであるべきと考えるのは少々息苦しくもあります。誰もが3者を行ったり来たりしていると考えると、コーリングの波に乗れている時期をより慈しめるように思います。


(1) Wrzesniewski, A., McCauley, C., Rozin, P., & Schwartz, B. (1997). Jobs, careers, and callings: People’s relations to their work. Journal of research in personality, 31(1), 21-33.

(2) 田尾 雅夫 『モチベーション入門』。ERG説は「欲求に関するアルダファのERG説」 (*ListFreak)