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177 二項対立を三項鼎立にとらえ直す

【所有・経営・統治】

ピーター・ティール他『ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか』(NHK出版、2014年)を読みました。ティール氏はペイパルの創業者として知られる起業家・投資家です。

創業時の組織設計についての章で、よいリストを手に入れました。『スタートアップでは社員みんなが一緒にうまく働いていく必要がある』が、実際には難しい。そこで『企業内の不一致の原因を考えるには、次の三つの役割を区別するとわかりやすい』として、次の3つの役割を定義しています。

  • 【所有】 株主は誰か? (Ownership)
  • 【経営】 実際に日々会社を動かしているのは誰か? (Possession)
  • 【統治】 企業を正式に統治するのは誰か? (Control)

企業運営の3つの役割*ListFreak

よく「所有と経営の分離」といわれますが、ここでは「統治」という役が加えられています。二項対立的な要素分解を、いってみれば三項鼎立に見立て直すことで、事象が複雑になるどころか逆にすっきり理解できる好例に思えました。

リストだけでは少しわかりづらいので、本文からもうすこし引用します。

たいていのスタートアップは、創業者と従業員と投資家の間で所有権を分けあっている。日々の業務を行うマネージャーと従業員が、実質的な経営を行っている。そして通常は、創業者と投資家からなる取締役会が、統治を行う。

さらに、原書での言葉づかいも調べてみました。見出しはリストに含めておきましたが、全文を引いておきましょう。

  • Ownership: who legally owns a company’s equity?
  • Possession: who actually runs the company on a day-to-day basis?
  • Control: who formally governs the company’s affairs?

文中のown、run、governという動詞が、役割の違いをわかりやすく示しているように思います。日本語では何もかも「経営」でくくれてしまうので、経営という言葉を使わずに「所有・執行・統治」、あるいは「所有・執行・支配」というほうが意味がつかみやすいかもしれません。後者は3つの「し」として覚えやすいですし。

それはさておき、統治という第3の視点を手に入れると、企業でいえば「物言う株主対経営者」、スポーツでいえば「オーナー対選手」といった対立の構図が違って見えてくるように思えます。すなわち、統治の仕組みがないか、あってもそれを担う役が十分に独立してしないために、統治権の取り合いになっていると読み解けるケースが多いように思えるのです。

【個人・組織・?】

せっかくですので、頭の体操に「二項対立を三項鼎立に捉え直してみる」エクササイズをしてみようと思い立ちました。親対子、営業対技術などいろいろありますが、今回は「個人対組織」を考えてみます。

仕事がら、従業員が会社に対して持っている不満や問題意識を聞く機会はたくさんあります。一方で、経営者が従業員に対して持っている不満や問題意識を聞く機会も、それなりにあります。こちら対あちらという構図で考え、しかも自分の側は悪くないとすると、相手に不満が向くのは当然ともいえます。

では、個人・組織に加えることで、対立構造がより深く理解できるような第3の要素は何か。

「部」「組合」のように、単に両者の中間地点的な要素をおくだけでは、個人←→部←→組織と直列になって立体的な感じがしません。一方で「社会」はいい候補だと思います。個人⊂組織⊂社会というシンプルな包含関係であるという点では似ているのですが、個人と社会は組織の外で結びついているので、視野を広げてくれそうです。社会の一員としての「家庭」を第三極に置くのもよいでしょう。

組織を一般企業に絞って考えてみると、「理念」も面白そうです。「部」や「社会」のようにヒトではないところにもチャレンジ精神をかき立てられます。

そこで、三極図形で考えてみました。三角形にすると、個人と組織が真っ向から対立せず、互いに理念のほうを向くかたちになります。それはそうですよね。理念が企業の「存在目的」です。個人は理念に「共鳴」して企業に「参加」したわけですし、組織は理念を「判断基準」として「価値実現」を果たしていくために企業が設計した装置です。そのために個人は「役割分担」をして組織を担っています。

この図を眺めていると、個人が組織に感じる不満を理念という視点から整理できそうです。たとえば:

  • 「判断基準」問題:組織として理念に向かって進んでいない
  • 「役割分担」問題:自分への資源配分に問題がある
  • 「共鳴」問題:もはや理念に共鳴できない

「理念」の代わりに「社会」や「家庭」を置いても、また違った視点から不満を捉えられそうです。すこし練習が必要ですが、二分法的思考からの脱出スキルとして有用ではないでしょうか。

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