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162 知恵のバランス理論

【知恵のバランス理論】

知恵(Widsom)という言葉には、知識(Knowledge)とも知能(Intelligence)とも違ったニュアンスがあります。単なる「物知り」や「切れ者」にはない賢さ、思慮の深さがイメージされます。

知恵をいくつかの辞書で引いてみると、大きく3通りの説明があることがわかります。1つめは、一般用語としての説明。たとえば「物事の理を悟り、適切に処理する能力」(広辞苑)です。2つめは仏教のいわゆる「智慧」、3つめは哲学のいわゆる「ソフィア(叡智)」です。知恵という言葉は、東洋と西洋両方のよき知のあり方を代表しているのです。

知能の研究で知られるロバート・スターンバーグは、知恵を「二つの物事のバランスをとるための暗黙知」とシンプルに定義しています。

スターンバーグが”A balance theory of wisdom”(1)(「知恵のバランス理論」とします)と題して発表した論文を、心理学者のジョナサン・ハイトが『しあわせ仮説』でわかりやすく紹介していました。

まず、賢明な人は、自身の欲求、他者の欲求、そして直接的な相互作用のない人々の欲求や物事(たとえば、制度や環境、後に悪影響を与えかねない人など)のあいだでバランスをとることができる。無知な人は、すべての物事を白か黒かで見たがり、純粋悪の神話に大きく依存し、自身の自己利益に強く影響される。賢明な人は、他者の観点から物事を見ることができる。グレーの部分を正しく評価して、長期的な観点ですべての人にとって物事が最もうまくいく行動指針を選択し、助言することができる。

すぐに「白か黒か」を決めつけるのは避けるべき二分法的思考とされます。しかし灰色の存在を認めるだけでは十分ではないように思います。というのは、二分法的な灰色の認め方もあるからです。

たとえば、主張の対立が発生するといつも、すぐ「では間(あいだ)をとって」とか「ではウチもこれだけ泣くのでそちらも……」とか、妥協的なパターンに持ち込む人がいたとします。知恵を感じるか。残念ながら感じられません。これは、いってみれば「『白か黒か』か、50%の灰色か」という二分法です。知恵は決まりきったパターンで考えることからは生まれないことがわかります。

上記はバランスをとる対象(=何について)についての記述でした。知恵のバランス理論では、バランスをとる方法(=どうやって)についても説明されています。

二番目に、賢明な人は、状況に対する三つの反応のあいだでバランスをとることができる。すなわち、適応(環境に適合するよう自己を変化させる)、形成(環境を変化させる)、選択(新たな環境に移動することを選ぶ)である。

知恵のない人の例はありませんでしたが、先の記述にならって考えれば明らかです。知恵のない人はすぐに「こうするしかない」と決めつけてしまうでしょう。知恵のある人をめざすならば、いかなる状況においても適応/形成/選択といった対応オプションを探るべきということになります。

【「わかる」から「できる」をめざして】

スターンバーグの定義に戻って考えると、知恵がある人にはそういった力が「暗黙知」(Tacit Knowledge)として備わっているところにポイントがあるように思います。つまり、二分法で反射せず上記のように広く深く考えることが自然な反応として現れなければなりません。

いきなりめざすのはとても無理としても、せっかくよいフレームワークを学んだのですから、少しずつトレーニングしてみたいと思います。愛用のSOSに当てはめると

  • Stop(止まる)】一拍置いて情動をやり過ごす。感情にまかせて反応しない
  • Observe(観察する)】状況・自他の感情を観察し、隠れた意図や要求を考える
  • Select(選択する)】目的を考慮し、最善の行動を選ぶ

動揺を切り抜けるための”SOS”*ListFreak

まずは(Stop)一拍置いて二分法的決めつけを回避する。(Observe)状況を観察する。そして(Select)バランス理論で対応策を選ぶ。進歩を感じられたら、稿を改めて報告したいと思います。