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012 合理的な意志決定のために必要なのは「感謝」

●我々の判断をゆがませるもの

我々は自分の判断には過剰な自信を持ちがちです。問題の原因が構造的なものであっても人(しかも往々にして他人)に帰着させたがります。目立つ事象を過剰に重視した判断をくだしてしまいます。起きてしまったことについては、もともと何も考えていなかったくせに「やっぱりな」「そんな気がしていた」と思ってしまいます。このように、人間の記憶や感じ方、そして考え方には、非合理的な傾向があります。自分はそんなことない?それはもしかしたら一番目の傾向の表れかもしれません。

上で挙げたような傾向は人間に一般的なもので、「認知バイアス」として知られています。認知バイアスの一部は、限られた時間や情報の中で選択をしていくための無意識的な簡便法(ヒューリスティクス)がもたらす副作用として理解されています。人間が生まれつき持っている思考のクセのようなものですね。この「クセ」から生じる判断の誤りをなくそうと、我々は時間をかけて考えたり、論理的思考を学んだり、複数の人間で検証を行ったりします。

逆にこの「クセ」を増幅してしまうのは、いわゆるストレスです(ストレスにもいろいろありますが、ここでは判断のゆがみを助長するような心理的な圧迫を指しています)。マネジャーとしては、できるだけストレスを排除して意志決定に臨みたいもの。皆さんも「ストレス・マネジメント」とか「ストレス・コーピング」という研修を受けたことがあるかもしれません。

●判断のゆがみを最小化する鍵

今回ご紹介したいのは「感謝の気持ちこそストレスに対抗できる想念である」という文章。

 1970年代、私は幸運にも、ストレスという概念の発見者である生理学者ハンス・セリエ博士が晩年におこなった講演会に参加することができた。

 セリエ博士は、ストレスに対抗できる唯一の想念は、感謝の気持ちであると説いた。

(略)

 その後、脳内化学物質に関する研究が進んだ結果、セリエ博士の教えは時代を先取りした主張であることが明らかになった。感謝の気持ちを感じると脳内でセロトニンが放出され、このセロトニンがストレス物質の連鎖反応を抑制することが判明したのだ。

ルーシー・ジョー・パラディーノ 『最強の集中術』 エクスナレッジ 2008年

上を引用したブログのエントリを読んだ方が、メールで「感謝に勝るものはありませんね」と共感を送ってくれました。わたしは「へー、感謝がストレスに効くのか」くらいにしか受け止めていなかったので、「感謝に勝るものはない」という言葉には刺激を受けました。

もし感謝が心を静める最強の想念ならば、いつでもどんなときでも頼れる「無条件に感謝できる存在」を用意しておけば、万能の抗ストレス剤になるはず。無条件に感謝できる存在……と考えて、無宗教のわたしは「神様」というアイディア(?)の素晴らしさに今更ながら気がつきました。神を信じるとは、神に無条件に感謝することと言い換えられますね。

無条件に感謝する。過去に起きたことだけでなく、これから起きるすべてのことに対しても、感謝する用意ができている。そんな対象があれば、どんなときでも心を静められるでしょう。

神でも天でも自然でも、「無条件に感謝できる存在」を探しておくのも良いでしょう。加えて、積極的に感謝の対象を探すクセをつければ、心を静める手がかりになるでしょう。「いつでも何かに感謝できること」はよい決断のためのスキルと言ってもいいかもしれません。

実は先日仕事で強いストレスを受けたことがあり、偶然にも感謝の力を試す機会に恵まれました。仕事の中で悪役を演じる必要があり、結果が当方への手厳しい批判となって返ってきたのです。意図通りとはいえ、どうしても穏やかな気持ちではいられません。憂鬱な数日を過ごした後で心を静めることができたのは、背景を知る方々からの温かい言葉のおかげです。