概要
さまざまな思考法がめざす、一つの目的
仕事をしていると「よく考えたい」と思う、悩ましい状況はたくさんあります。説得力のある提案書を作りたい、トラブルを的確に分析して対処したい、会議で対立を乗り越えて合意を形成したい、メンバーの相談にうまく乗りたい、魅力的なビジョンを掲げたい……。
そういった悩みの数だけ、解決の方法論も存在します。問題解決、論理の構造化、会議のファシリテーション、コーチング、プレゼンテーション……。
しかし突き詰めれば、種々の悩みは一つの事実に由来します。それは「未来が不確か」だということ。
「提案書をこう書けば必ず通る」とわかっていれば、悩みはありません。しかしわれわれは未来の不確かさを知っているがゆえに、それが甘い目論見であることを知っています。「何をやっても同じことだ」と割り切れれば、やはり悩みはありません。しかしめざす未来に少しでも近づきたいがゆえに、われわれは最善を尽くしたいと願います。
そう考えると、数々の思考法は「めざす未来を現実にするための最善のやり方」を教えてくれる専門ツールだと理解できます。
一本の包丁を使いこなすアプローチ

そういった思考法の原型はどのようなものだろうか? 料理でいえば用途別にナイフを揃える代わりに一本の三徳包丁を使いこなすアプローチがあるとしたら、どのようなものだろうか?
思考トレーニングの設計や提供を手掛けるようになって15年ほど経った時点で、そういった思いが強くなりました。もし「考える仕事の三徳包丁」のようなものがあれば、まずはそれに習熟して、必要に応じて用途別のナイフを買い足していけばよいわけです。
「考える仕事の三徳包丁」に求めるのは、次のような条件です。
- 汎用性がある
一つのやり方で、できるだけ多様な状況に適用できること。 - 対話に使える・考える「その場」で使える
他者と言葉を交わしながら共に考える「その場」で使えること。たとえば商談の相手や会議の参加者の思考を促すために使えること。 - 行動につながる
状況が分析しきれなくても次の一歩を見い出せること。時間や予算など資源の制約が常にあることを前提として「現時点での最善解」が出せること。
これらの条件を満たすために、汎用的な論点を網羅したシンプルなワークシートを設計しました。
必要にして十分な論点とは
先に述べたように、悩ましい考えごとの多くはめざす未来のためにこれからの行動をどう選択するかに関わるものです。

行動は現在の事象に影響を及ぼし、結果として未来を変えていきます。であるならば行動を選ぶには、現在起きている事象の構造を把握する必要があります。

事象の構造を把握するとは、いま起きていることとその背景・事情・原因などを理解することです。
右図(下図)で左列を結果、右列を原因とすると、その関係は上段にも当てはまることがわかります。我々はめざす未来という結果を得るために、これからの行動という原因を作ろうとしている、とも言えます。

「未来-現在」×「結果-原因」が作る4つの論点は、目的と手段、目標と現実、結果と原因、問題と解決といった、仕事で使う論点をよく網羅できます。

これからいくつかの例で示すように、考える仕事を進めるうえで有用な多くの方法論の構成要素は、この4論点に収まります。多様なやり方を基本原則から整理することで、既存の方法論の強みや用途を再評価でき、より深い理解に基づいた活用がやりやすくなります。
4論点を2×2マスに表現する
4つの論点を2×2の4マスに配することで、そのまま紙やホワイトボード上で書きながら考えるためのワークシートになります。
これは、もともとは私たち自身のための工夫でした。顧客ヒアリングなどの際に、話すスピードで議論を可視化する方法を模索していて開発したものです。


ある手段を実行することは、問題解決のストーリーを描くことです。めざす未来とこれからの行動は直接リンクしないがゆえに、そのストーリーはU字の道のりをたどります。
そしてストーリーは、行動を起こした時点では完結しません。
上の図でいえば、広告を出しておしまい、にはできません。広告を出すことで知名度が上がり、客数が伸び、売上が上がるといった因果関係の連鎖を現実に起こしていくためのフォローアップが欠かせません。また状況変化への対応や目的自身の見直しも必要かもしれません。U字型の矢印は、そのような手段と目的の関係性や、建設的な往復運動が必要であるといったモニタリングのイメージを象徴しています。
Solventとは

- 未来×結果(どんな未来をめざすのか)
- 現在×結果(めざす未来からみて現状をどう評価するか)
- 現在×原因(めざす未来と現状との差異は何から生じているのか)
- 未来×原因(めざす未来のために何をやるか)
弊社では「考える仕事の三徳包丁」として4つの普遍的な論点を定義し、4マス図を使った論点整理のやり方を開発してきました。実際のお客様への思考トレーニングの方法論として提供することで、その包丁を研いできました。
同時に、お客様の様々なニーズに対してこの原則とツールを適用していくことで、いわば「レシピ」を作ってきました(「適用領域」参照)。
Solvent は、これら4論点で考える原則、4マス図での論点整理のやり方、そして「Solvent for 問題解決」などのレシピ集を合わせた体系です。多くの方法論を溶かし込める溶媒 (solvent) 的な原則であり具体的な解決方法 (solvent) でもある、という意味を込めて命名しました。
適用領域
問題解決

現状についての問題意識を、めざす状態(目標)との差異と捉えて具体化する。差異の原因を推察し、問題構造を把握する。効果的な課題を設定し、解決策を実行する。Solvent は俯瞰的な問題解決のストーリーを作ります。
ファシリテーション

ファシリテーションは、会話を通じた問題解決支援と位置付けられます。リアルタイムでの論点整理と共有は難易度が高いため、4マスの汎用的な論点マップが役に立ちます。
コーチング

コーチング原則の一つである GROW モデルを見ると、多くの論点が問題解決の流れに乗っています。4つのマスを頭の中で埋めながら相手の話を理解することで、次に何を聞くか・何を言わないかの選択がスムーズに行えます。
セールス

複雑な商品のセールスは、顧客の問題を深く理解することから始まります。Solvent は提供する商品が顧客の問題解決のために最善の解決策であるといえるか、俯瞰的な視点でチェックをしながら商談を進めるのに役立ちます。
実行計画

未来に望む結果に向けて実行する行動の計画を立てる。Solvent 原則でこの行為を見直すことで、実行計画を「未来に先回りした問題解決」に変えることができます。
戦略思考

「戦略的に考える」とはどういうことなのか。何が核なのか。それを支えるスキルは何か。Solvent 原則に乗せて理解することで、日々の仕事を一歩戦略的にすることができます。
枠の外に出る

「枠の外に出る」思考は、逆説的ながら「枠の中で考え尽くす」作業の果てに現れます。Solvent の汎用的な論点の枠組みで考えることにより、もっと高い目的、もっと深い原因といった思考を促すことができます。
デザイン思考

実践主義的な問題解決の進め方であるデザイン思考も、Solvent の枠組みに乗せてみると、自分のふだんの仕事と比べてどこに重点を置くべきかが見えてきます。
理念経営

経営者が問題を分析して設定した課題は、細分化された問題として担当者に卸されます。Solvent の枠組みを組織で共有することによって、それぞれの問題がどう関係して組織としての目的につながっていくのかを理解することができます。
解決フォーカス

解決フォーカス(ソリューション・フォーカスト・アプローチ)では、問題の原因を追究しません。Solventの4マスをイメージしながら会話を進めることで、相手に考えてもらうべきこととそうでないことの識別を明確にできます。
Solvent を身につける
Solvent はシンプルな原則なので、このページを目次とする一連の文書に目を通していただければ概要はご理解いただけると思います。
弊社では、基礎をなす問題解決について半日のトレーニングセッションを2~3回に分けて提供しています。そのうえで、ニーズに応じたトレーニングセッションをお客様と一緒に考えて提供しています。